KEIO
LEADERSHIP
CENTER

MENU

リーダーとの対談録 第11号(交渉学特別講義 – 福澤諭吉記念文明塾卒業生とのセッション)

2022年度交渉学特別講義の開催

2022年12月10日(土)、慶應義塾大学三田キャンパスにて「交渉学特別講義 – 福澤諭吉記念文明塾卒業生とのセッション」が開催された。当日は9名の文明塾卒業生がパネルディスカッションやプレゼンテーションなどを行い、参加した約30人の交渉学受講生にとって、学びの多い1日となった。
以下、参加された文明塾卒業生(五十音順)

・石川なつみ氏(在カナダフリーランス広報PR/Umami Kitchen創業者兼CEO)
・一瀬康平氏(大手金融機関 林業経営アドバイザー)
・井上貴文氏(KUROFUNE Design Holdings株式会社/国際学生寮U Share)
・太田バークレイ結斐氏(ニューヨーク州弁護士)
・菊池咲氏(経済安全保障コンサルタント)
・古山彰氏(福澤諭吉記念文明塾4期)
・菅井映里氏(写真家/アジアパシフィックラクロス連盟理事)
・韮澤一平氏(公認会計士)
・伏見崇宏氏(ICHI COMMONS株式会社 代表取締役)

第1部 パネルディスカッション:女性活躍とリーダーシップ

今回のセッションは石川氏、太田バークレイ氏、菊池氏、菅井氏によるパネルディスカッションでスタートした。

マジョリティの力も生かしダイバーシティ社会の実現を

近年、注目されている「ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂性)」が議論の中心となった。4人がまず指摘したのが日本のダイバーシティ社会の実現の遅れだ。菅井氏は自身が携わるスポーツ界を例にとり次のように語る。「2021年には東京オリンピックのスタッフとして働いたが、海外から来たスタッフの半数は女性。一方で日本のスポーツ界の状況は厳しい。未だ、監督やチームスタッフ、或いは団体の理事や従業員の多くを男性が占める。」菊池氏も課題を指摘する。「(私の専門の)安全保障の世界も男性が中心となり動いている。会社でも上のほうに行けば行くほど女性の割合が減る。ストラクチャー(構造)を変えなければならない。」

では、このような状況をどのように改善していけばよいのか。日本でのダイバーシティがなかなか改善されない理由として太田バークレイ氏はある課題を指摘する。「日本でダイバーシティに関するイベントを開催するとなると、テーマとなっている少数派(女性活躍がテーマであれば女性)にだけ働きかける。それでは不十分。マイノリティの活躍を促すためにはマジョリティを巻き込み、更には動かさなくてはいけない。ダイバーシティの課題を解決するには多数派の力が必要という理解が日本には足りない。」日本社会を大きく確実に動かしていくには、これまでの社会で中心的役割を担ってきた多くの男性の意識を変え、当事者意識を持って改革に共に尽力してもらわなければならない。一方で、ダイバーシティや女性活躍実現に向けて男性も協力してほしいと言うだけでは社会の変化は生まれない。「世の中には色々な階層がある。そのピラミッドの中に男性・女性といったカテゴリーがある。「女性の活躍を!」と言っても、もっと苦しい男性がいるのも事実。そこに理解を示し、より良い社会に向けて思考停止をしないことが大切」(菊池氏)。

女性の活躍と男性働き方を同時に変化させていくことの必要性を石川氏は指摘する。「前にいたLINEはすごくフラットな会社だった。だが、マネージャーになりたがる女性が少ない。会社のなかで昇進しながら子育てをしようという思いが持てないからだろう。女性の活躍、女性に昇進してもらうことと子育てにも取り組んでもらうことの二本立てがうまくいっていない。それは、男性が働きすぎで家庭での女性の役割が大きすぎるということもある。男性もより家庭に携われるようにもっとフレキシブルな働き方をできるようにすべきだ。男性の家庭進出が大切だ」。

第2部 スピーチ:「グローバル・リーダーシップ2050」 – グローバル人材の誤解とぶっちゃけの近道

続いて、井上氏に「グローバル・リーダーシップ2050」と題してご自身の原体験に基づいたスピーチをいただいた。昨今、ボーダレスな社会になったとよく言われる。では、グローバルに活躍するとはどういうことなのか。学生に熱く語りかけた。

マイノリティとして、そして自分の価値観で飽くなきチャレンジを

井上氏は慶應義塾大学総合政策学部を首席で卒業したのち、メルリンチ日本証券投資銀行部門での勤務を経て、ハーバード大学デザイン大学院で都市計画・都市デザインを学んだ。その後、米国の都市デザイン事務所での勤務を経て国際学生寮 U Share の企画、設計、開発、運営に一気通貫で取り組むKUROFUNE Design Holdings株式会社を創業するなどまさに世界をまたにかけて活躍してきた。

まず、井上氏は「グローバル人材とは何か?」と学生に問いかけた。井上氏は単に外資系で働いたり、海外でキャリアを積んだりするだけでは真のグローバル人材にはなれないという。「肩書だけで(人を)見るのではなく、もっと深いところを見たい。グローバル人材とはグローバルで活躍できる人材である」(井上氏)。

では、グローバルで活躍できる人材になるには何をすればよいのか。井上氏は3つのカギがあるという。まず1つ目は「マイノリティになる」こと。井上氏はこれまでも「周囲が自分を知らない環境にあえて身を置いて挑戦すること、そして時には日本人というマイノリティを逆転の発想で活かしてきた」という。2011年から2012年にかけてエディンバラ大学に留学し周囲が何を言っているか分からない中でもラグビー部に所属、デザインのバックグラウンドが無い中、金融から大きくキャリアチェンジしハーバード大学デザイン大学院に進学、修了後も米国の都市デザイン事務所でも多国籍なメンバーの中で仕事をするなど、常にマイノリティの立場を経験してきた。「タフで新しいことにチャレンジする経験をすることで、それが大きな財産になる」(井上氏)。

2つ目は「幕の内弁当を作らずおにぎりを作る」こと。この言葉に込めた真意を井上氏は次のように語る。「自分のこれまでの人生を振り返って感じるのは、大きな方向性を描くことの大切さだ。例えば、幕の内弁当を作るとなれば、まず多種多様な献立をつくり、どの料理をどこに、どのように詰めるかを詳細に決めていかねばならない。しかし、最初から全てを描き切ることは難しいし、楽しくない。一報、おにぎりは米を結ぶという大きな方向性を作っておけば、後は海苔を巻くこともできれば、ゴマをかけることもできる。即ち、可変性がある。大事なのは大局的な方向性を描く感覚を持つこと。そしてその方向感に基づいたアクションを計画し、実際に実行に移せるかだ」。

最後に井上氏が強調するのは「人生のものさしを持つ」こと。「社会のものさしと自分の人生のものさしは往々にして違うはずだ。学生にとって身近な就職活動でも、年収や就職偏差値など社会には様々な評価の仕方があるが、その評価順位と自分のやりたいことの順位が一緒ではないケースも多々あるだろう。自分のものさしを考える、見つける時間は社会人になったら少ない。学生のうちに考えておくことが、将来の成長につながる」(井上氏)と学生にエールを送った。

井上氏が運営する国際学生寮 U Share 西早稲田では2023年春期入寮生を募集している。塾生の他、都内複数大学の多様な学生が居住しているそうで国際学生の比率は半数を超えるとのこと。興味のある方はこちらから。

第3部 スピーチ:文明塾卒業生が創る社会貢献活動-文明塾卒業生が経営する林業に関するフィールドワーク

最後のセッションとなる第3部では一瀬氏と韮澤氏から、文明塾卒業生による社会貢献活動についてお話いただいた。今回は、文明塾卒業生である田島大輔氏、茉莉氏夫妻が大分県で経営する田島山業を見学し、課題の多い林業への提言、そしてその実現に向けた取り組みを紹介いただいた。

輪を作り社会に貢献する

田島山業を見学するきっかけとなったのは、文明塾卒業生の集まりである慶應FBJロードランナーズである。毎月行っているオンラインイベント「Talk Runners」で文明塾卒業生が持ち寄るテーマで対話と議論を行っており、田島夫妻から、林業は地球の環境保全や土砂災害防止といった点で大きな役割を果たし日本になくてはならない存在である一方で、採算性や後継者不足など大きな課題を抱えていることが共有された。「課題の多い日本の森林・林業に文明塾卒業生として何か貢献できないか」(韮澤氏)と今回のイベントが企画された。

慶應FBJロードランナーズの前身は文明塾駅伝部と言い、文明塾のグループワークで提言された三田コミュニティの活性化を目指して2010年に結成され、現在は文明塾卒業生の集まりとしても活動している。当時学生だった韮澤氏は駅伝部の発足時からその中心メンバーとして活躍し部長も務めた。「みんなを集めて楽しくやるというのが自分の役目。多様なバックグラウンドを尊重してみんなが活躍できる場を提供する」(韮澤氏)との言葉通り、金融・商社・ITなど様々な企業に勤める卒業生が見学会に参加した。

今回の田島山業見学では一瀬氏の活躍があった。大手金融機関で5年ほど林業支援に携わった経験を惜しみなく発揮。見学イベント当時は林業の担当ではなかったが、「日本の森林・林業が抱える課題に何かしたいとずっと思っていた。だから、林業担当を外れたからもう林業に携わらないというのは、自分の思いが嘘だということになる」とイベントの中心的役割を積極的に担った。見学会を通じて各人が考えたことを共有、議論をして林業に対する提言を行ったが、一瀬氏は次のように振り返る。

「みんな真剣に議論してくれた。一方で、これまでの仕事を通じて林業の課題を知っていたものの自分は何もアクションを起こせていなかった。現状を知っていたからこそ勝手に制限を設けていたことにも気づいた」。森林オーナー制度作りや森林ツーリズムの開発などが提言され、次はそれを実行に移す段階だ。「林業ツアーを企画しても、それだけでは点に過ぎない。多くの人がもっと森林につながれる仕組みを作らなければいけない。今はまだ、ジャストアイデアかもしれないが、必ず実現させる」(一瀬氏)と早くも先を見据えている。

謝辞

ご多忙の中わざわざ休日に三田キャンパスまで足を運び、塾生の学びに貢献してくださった文明塾卒業生9名の方々に感謝申し上げる。

上記対談録に直接登場することはなかったが、日頃の交渉学に社会人アシスタントとして参加いただいている古山氏には、本セッションの企画・運営を一手に担っていただいた。古山氏がいなければ、本セッションの発想はなく、本セッションの成功は古山氏のご尽力の賜物である。

また、伏見氏には第1部のパネルディスカッションの司会を務めていただいた。伏見氏には、交渉学の「リーダーとの対談」で既にご登壇いただいている。伏見氏のリーダーシップは、「リーダーとの対談録」第7号を参照されたい。