KEIO
LEADERSHIP
CENTER

MENU

リーダーとの対談録 第7号(伏見崇宏 ICHI COMMONS代表取締役)

2022年度交渉学 第3回「リーダーとの対談」

2022年10月24日、秋学期第3回目となる「リーダーとの対談」は、ICHI COMMONSの代表取締役を務めている伏見崇宏(ふしみたかひろ)氏にご登壇いただいた。伏見氏は、大学1年生時に「福澤諭吉記念文明塾」に参加、大学2年時には教育系一般社団法人HLABの立ち上げにも携わった。常にチャレンジ精神を忘れずに、自らの道を切り開いてきた伏見氏が学生に熱い思いをぶつけた。

原点の大学時代

大学1年時に「福澤諭吉記念文明塾」に参加した伏見氏。ここでは、週2回、学生30人と社会人30人がリーダーシップについて本気で議論した。「文明塾で対話と議論を続けることで、自分自身の感覚を研ぎすませることができた」と伏見氏は振り返る。大学2年になると「日本の偏差値教育を変えたい。そのために自分たちで必要な環境を作ろう」とHLABを立ち上げた。このHLABは「高校生の時から、大学・社会人のビジョンを考えてもらおうという高校生向けのサマースクール」(伏見氏)の運営にあたっている。HLABを立ち上げて2年目、伏見氏は代表を務めていたが、赤字に陥ったという。「自分たちで本当にリスクをとってやっているわけではない。勉強しないといけないな」。そう感じた伏見氏は、ゼネラル・エレクトリック(GE)に入社することになる。

「社会課題を解決したい」

伏見氏が自己成長のためGEを選んだ理由は、学生時代に「福澤諭吉記念文明塾」で聞いた一言にあった。それは、当時GEの社長であった藤森義明氏の一言だ。「GEは人に投資します。人材投資に一番力を入れています」。この言葉に感銘を受けた伏見氏は、就職活動をしたのはこの一社のみであったという。HLABで悔しい経験をした伏見氏は学びの場を留学や大学院などではなくビジネス界に求めたわけだが、企業で学ぶことを選んだわけをこう語る。「向き不向きだと思う。私は座学が苦手だった。自分が動きやすい環境を選んだ」。

入社後は新潟の工場に配属されたが、そこで目にしたものは日本の大きな社会問題の1つでもある、貧困と格差であった。「当時いた新潟には娯楽が少なく、また地域のセーフティネットが弱体化していた。社会課題の解決に携わりたいと思った」(伏見氏)。一般社団法人C4に転職したのち、ICHI COMMONSを立ち上げた。

相手に興味を持ち、社会を変える

ICHI COMMONSは「ソーシャルセクターとビジネスセクターの交わるところ。誰がどこで何をやっているかわかる社会を作るべく、企業のファンづくりの支援、診断ツールの提供、活動のマッチングと見える化を行っている」(伏見氏)。高い志を掲げながら、日々挑戦の連続だという。「全国の企業やNPOを回って声を聞くが、「社会貢献をしている暇はない」と言われたり、「社会課題の解決は甘いものじゃない」とお叱りを受けたりすることもある」。それでも「相手に興味を持つことが大切」と伏見氏は信じる。「情報過多の今の世の中で、なんでこの人がこの話をするのかということを考えなくなっている。その人の価値観をしっかり理解し、自分の価値観をぶつける」ことで少しでも事業に共感してくれる人を増やそうと奮闘している。ビジネス的な利潤を追求するだけでなく、SDGsやESG投資といった社会貢献も求められる時代だ。しかし伏見氏は「パラダイムシフト、マインドセットを変えるためには30年かかると思う」と指摘する。それでも「SASBやGRIといった評価機関が政治的な闘いをしている。意図はどうであれ、いつか(社会貢献的分野に)お金の流れは来る。必ず流れは来る」と前を見据えていた。

将来に向けて

「世の中をもっと便利にしたい」を自らの人生のパーパスとして掲げる伏見氏。GEに入社したのちに社会課題の解決がしたいとICHI COMMONSを立ち上げるなど積極果敢な挑戦を繰り返してきた。これまでの人生を「ビュッフェのような生き方」と表現する。様々な経験を積み、誰がどんなことをやっているのかを知っていく。それを「ビュッフェ」というたとえで表現した。「色々な人に出会い、色々なことを学び、それを積み上げていく。自分と関わった人が幸せになることをどんどんやっていきたい」と決意を語る。

パラダイムシフトが起きている今だからこそ、学生にできることがあるという。「社会課題に対しての自分の定義を考える。学生ならではの視点で考えられることがある。時間のある学生だからこそ起こせるインパクトがある。社会課題は遠くにあるイメージがあるけれど、実はみんなが当事者。皆さんが「これ」と定義したものは、社会課題。潜在的に社会課題を解決していくために自分自身が準備していく必要がある」。一方で、自分がどのような形で社会に貢献をしたいか見つけられずに焦る学生もいる。そんな学生に伏見氏は「将来の展望が見えていなくても大丈夫。自分も色々探し続けた。そのプロセスが大事だと思う。自分の行動にしっかりと意味づけをする。学ぶため、と焦らずにやっていけばいい」とアドバイスを送る。

これからも日本の社会課題の解決に大きな影響を与えることが期待される伏見氏。「自分が社会を変える救世主と思わないこと。大きな流れの中で、自分がやれることをしっかりとやっているかを考えたい」と静かに、だが力強く将来を見据えていた。