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リーダーとの対談録 第8号(笹田珠生 バンク・オブ・アメリカ 在日代表、BofA証券株式会社 代表取締役社長)

2022年度交渉学 第4回「リーダーとの対談」

2022年10月31日、秋学期第4回目となる「リーダーとの対談」には、バンク・オブ・アメリカ在日代表、BofA証券株式会社代表取締役社長の笹田珠生(ささだたまお)氏にお越しいただいた。SDGsやESGなど、社会が大きく変化しようとしている現在。持続可能で多様性のある社会を作るために何が求められているのか、学生との対談を通じて笹田氏に語っていただいた。

チャレンジを続ける

慶應義塾派遣制度を通じ、在学中に豪州に留学経験を持つ笹田氏。同国ニュー・サウス・ウェールズ州や米国ニューヨーク州の弁護士資格も取得している。「オーストラリアや米国の学生は、日本の学生よりも勉強するなと思った。どういった専門性を身につけたいか、問題意識をもって勉強しているように感じた」と厳しい環境に身を置き、周囲から刺激を受けながら司法の勉学に励んだ。米国法律事務所での就職に進むが、一方で「もう少しビジネス寄りの仕事がしたい。投資銀行では経営者により近いところで仕事ができるのではないか」とメリルリンチ日本証券(現、BofA証券)へ転職した。

以来、人材流動性の高い外資系金融業界では珍しく、同社で長く投資銀行業務に携わっている笹田氏。長く続けられた理由には会社のカルチャーが関係しているという。「チーム一丸となり一つ一つの案件に取り組む。残念ながら負けてしまった場合には、どうしたら盛り返せるのかなど肩肘張らずに話し合える仲間がいる。様々なチャレンジを従業員に与えてくれる文化。自分も「自分の今のレベルでは厳しいな」と思うタフな仕事が来ても、まわりからアドバイスを受けながら立ち向かい、成長することができた」(笹田氏)。

持続可能で多様性ある社会へ

その後も金融業界でのキャリアを積み、2019年にBofA証券株式会社の代表取締役社長に就任した笹田氏。「BofAでは、『責任ある成長』という企業戦略を掲げ、幅広いステークホルダー(利害関係者)のためにサスティナブルに成長し続けることを根幹におく」と語る。今、資本主義に対する考え方が大きく変わろうとしている。1950年代以降、株主資本主義という考えが主流であったが、昨今、企業は様々なステークホルダーのためにある、というステークホルダー資本主義の流れが加速している。脱炭素社会の実現に向け、温室効果ガスの排出量の把握が重要となっており自社やお客様のサプライチェーンまで含めた定量化の必要性や、企業の利益に社会的なインパクトを加味する必要性の有無なども意識されるようになり、一つの新しい形の資本主義になっていくのではないだろうか」(笹田氏)。

近年では、利益を生み出すことと同時に社会貢献が企業に求められるようになってきており、SDGsやESGという観点はビジネス上も必要不可欠になってきている。そのなかで、BofAでは「ダイバーシティ&インクリュージョン」をキーワードに掲げる。例えば、従業員における女性の割合や有色人種の割合を数値として出し、多様性のある組織づくりを目指す。「米国は未だ差別の問題等もあり、多様性を重視する。その根底には多様性が高いほど強い会社になれるという信念があるからだ。どの人種がどのくらいいるのか、細かい数字を把握して、数値目標を立てることでマネジメントにもアカウンタビリティーを持たせる』と、笹田氏は言う。多様性のある社会の実現に向けて、日本は出遅れていると指摘されることも多いが、笹田氏は悲観的な見方はしていない。「第二次安倍政権が掲げた、三本の矢ぐらいから、変わり始めたように思う。この問題は、男性のサポートが重要で、取締役の女性割合を高めるなど、日本企業も相当意識しているはずだ」。

もう一つBofAが社会貢献の大きな柱に据えているのがESGである。例えばその中には文化財・美術品の修復資金援助も含まれる。「文化財の保護に取り組んで10年ほどになる。各国の文化を大事にして、地域のために何かをしたいという思いからサポートしており、おかげさまで多くの方から共感を得ている」(笹田氏)。東京国立博物館ともパートナーシップを組んで10年。国宝数点の修復にも携わった。その国宝は、現在開催中の「国宝 東京国立博物館のすべて」にて観覧することができる。

I have your back

資本主義の概念や価値観が大きく変化しようとするなかで、金融業界でリーダーシップを発揮してきた笹田氏。最後に彼女が大切にしていることを語ってくれた。「組織を強くするために自分の成功体験、失敗体験を共有する。「I have your back」という言葉がある。みんなのことを支えるよ、という意味。様々なチャレンジをする際にみんなにそう感じてもらえることを意識している」。変化が早く、不確実性の増す社会のなかで笹田氏はこれからもリーダーシップを発揮し続ける。