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リーダーとの対談録 第10号  (笹沼泰助 株式会社アドバンテッジパートナーズ共同代表パートナー)

2022年度交渉学 第6回「リーダーとの対談」

秋学期、第6回目となる2022年11月28日の「リーダーとの対談」では、株式会社アドバンテッジパートナーズ共同代表パートナーの笹沼泰助(ささぬまたいすけ)氏をお招きして行われた。笹沼氏は30年前に株式会社アドバンテッジパートナーズを創立し、以来長くプライベート・エクイティ・ファンド分野に携わってこられた。これまでの豊富な経験をもとに、不確実性の増すこれからの社会を先導していくに必要なリーダーシップの在り方を学生に熱く説いた。

常に社会に利益をもたらす投資を

笹沼氏がアドバンテッジパートナーズを創立したのはちょうど30年前の1992年。以来いわゆるバブル崩壊が起き、「失われた30年」が始まる苦しい日本経済のなか、投資ファンド業界で歩み続けてきた。投資ファンドと言えば、圧倒的な資金で次々と企業を買収していく様子を描いたドラマ『ハゲタカ』を思い浮かべる人も多いが、アドバンテッジパートナーズはそれとは違うと笹沼氏は語る。「投資した会社が未来永劫発展して、世界に善なる企業として存在し、正の循環ができるように意識している。地球環境問題も含め意味のある投資を心掛けている」。笹沼氏は、社会課題の解決に貢献しながら企業を成長させることや、あらゆるステークホルダーに経済価値が行き渡ることを誓った、アドバンテッジパートナーズの投資理念を読み上げてクライアントとの信頼関係を構築する。社会で真のリーダーシップを発揮しようとする彼の姿がここにある。

もう一つアドバンテッジパートナーズにとって重要なものがあると言う。それが『ミッション・ステートメント』だ。これは「なぜ自分が投資分野にいなければならないのか、というパーパスや存在意義を明らかにする」(笹沼氏)ものだ。なかでも重要視しているのは「Fairness Advantage(フェアネス・アドバンテージ)」だ。「関わっていただいた方々にどれだけ感謝をもってやれるかが重要」と笹沼氏は訴える。資金力を背景に利益を上げさえすればよいということを良しとしない、笹沼氏の投資家としての哲学が表れている。

投資家として、資金力をもとに大きな利益を上げることこそ正義という考え方もあり得る。それでも社会性を意識し続ける理由を笹沼氏は次のように語る。「我々が調達する資金は、年金基金、生保・損保などの積立金であり、全体的に捉えると公益性が非常に高い。だからこそ失敗は許されないし、どれだけ社会に対して善をもたらしたかが厳しく評価される。どのように投資が社会に還元されていくのか、ということが非常に大事だ」。

3次元のリーダーシップ

21世紀は壮絶な幕開けとなった。2001年には同時多発テロが発生。その後もリーマン・ショック、東日本大震災、コロナウイルスの蔓延など、数多くの社会課題が出現し、2022年にはロシアによるウクライナ侵攻が起こった。それと同時に、SDGsやESGが重要視されるようになるなど、社会規範も大きく変化をした。「経営の課題が複雑化して、多次元になっている。一人のリーダーだけで問題が解決できる時代は終わった」と、笹沼氏は語る。一人のカリスマに従ってさえいればよいという時代ではないということだ。では、我々はどのようなリーダーシップを発揮していくべきなのか。

多くの人は、「理論的に学ぶ機会が少ないからこそ、リーダーシップスタイルは自らの経験から学ぶことが多い」(笹沼氏)。例えば、部活動。新入部員だったころに先輩から高圧的な態度で接せられた場合、その人が上級生になると同じように下級生に対して高圧的なリーダーシップを発揮してしまう。だからこそ、「我々はそうなりがちなことを意識し、これまで研究されてきたリーダーシップの理論に触れて、人々が共感をして動機付けられるコミュニケーション能力を身に着けていくべきだ」と笹沼氏は考えている。

今の時代に求められるリーダーシップのあるべき形とは「3次元のリーダーシップ」だと笹沼氏は語る。「誰が先輩で後輩なのか、上司で部下なのか、そのような考え方ではなく、誰がその分野の専門なのかということが大事だ。その分野で一番専門知識を持っている人がリーダーシップを発揮すればよい。縦、横、斜め、多様な関係性のなかでリーダーシップを発揮しなくてはならない」。(笹沼氏)

理念を打ち立て、周りを巻き込め

そんな「3次元のリーダーシップ」を体現していると笹沼氏が絶賛する姉妹がインドネシア・バリ島にいる。メラティ・ワイゼンさんと2歳年下のイザベルさんだ。ワイゼン姉妹はバリ島の海岸にプラスティックゴミが散乱していることに危機感を持ち、彼女たちが12歳と10歳の時に「バイバイプラスティックバッグ」という活動を始めた。最初は2人で始めた活動であったが、多くの人の共感を呼び世界的な運動に。この活動によりバリ島では、使い捨てのプラスティック製品の使用が禁止になるなど社会を大きく動かした。ワイゼン姉妹はダボス会議に呼ばれパネルディスカッションにも参加したが、笹沼氏はその時の様子が忘れられないという。「アル・ゴア元米国副大統領や新浪剛史氏などそうそうたるメンバーのなかでも圧倒的存在感があった。きちんとした考えとそれに伴った行動と結果がいかに人々を惹きつけるのかを実感した」。年齢関係なく世の中をリードするワイゼン姉妹のように世界に大きく羽ばたいてほしいと笹沼氏は学生に語りかける。「理念を持ち、計画を立てて行動をする。そのサイクルで世界を変えていく。特に現在は、同じ志を持った人たちが対面で、そしてネット上で志を共有し、つながることのできる社会だ。早く自分の理念を打ち立てて、周りの人を巻き込んで動かしていくという志を持つべきだ」。

「実学」の体現者

将来はグローバルに活躍したいと考える学生も多いが、そのためには「専門分野の勉強以外に歴史と統計をしっかり学ぶように」と言う。「欧米やアジア諸国のエリートと言われる人たちは歴史に対する教養や知識が豊富。歴史の真実を理解することで見えてくるものもある。その教養が必ず今後の進むべき道のヒントになる」(笹沼氏)。

また、英語の重要性も強調する。笹沼氏は修士論文を英語で執筆、米国の戦略経営学会での発表の機会を得て、現地で発表をし、議論の機会を得たという。「さまざまな人からの質問に英語で答えたという経験は、非常に大きな自信になった」と自身の経験を振り返った。「世界の最前線の知識を得るには日本語の論文だけでは不十分。英語でコミュニケーションが取れるだけでなく、最前線の知識をつかむために専門書や論文が読めるレベルまで徹底的に」、笹沼氏はその大切さを学生に説く。

単に自らの経験則だけでなく、理論をしっかりと学び理解しているからこそ、投資ファンド業界でも活躍できる。ビジネス界での成功が決して小手先のものではないのは、学術も重視しているからであろう。幕末・明治維新と激動の時代を生きた福澤が唱えた「実学」を現代の不確実な社会のなかで実践している姿がここにはあった。