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6月22日(月)第10回「リーダーとの対談」

〜株式会社アドバンテッジパートナーズ共同代表パートナー笹沼 泰助さん 特別講義〜

▼古山 彰先生(KGRI客員所員)―演習:自己紹介セッション

▼田村 次朗先生(慶應義塾大学 名誉教授)-リーダーとの対談セッション:司会

▼笹沼 泰助様(株式会社アドバンテッジパートナーズ共同代表パートナー)
-リーダーとの対談セッション:スピーカー

今回の交渉学の講義では、株式会社アドバンテッジパートナーズ 共同代表パートナーの笹沼泰助様をお招きし、「リーダーとの対談」が行われました。

講義の冒頭では、笹沼様より、これから社会に出ていく学生に向けて、リーダーシップのマインドセットを持つことの重要性についてお話しいただきました。新入社員として組織の一番下の立場から出発する場合であっても、自分が配属された部門をどのように動かしていくのかという意識を持つことが大切であると述べられました。

その上で、近年の世界情勢や社会環境の変化についても触れられました。9.11以降、感染症、金融危機、震災、Brexit、コロナ禍、国際紛争など、地政学や国際経済に大きな影響を与える出来事が繰り返し起きていることを踏まえ、従来のように、組織のトップがすべてを判断し、上から下へ指示を出すだけで成果を出せる時代ではなくなっていることが示されました。こうした時代においては、一人ひとりが自らのポジションを認識し、リーダーシップを発揮していく信念を持つことが求められるというお話が印象的でした。

続いて、笹沼様ご自身のご経歴と、アドバンテッジパートナーズにおける投資理念についてお話しいただきました。笹沼様は、1992年に同社を設立されました。当初30億円規模で始まったファンドが、その後大きく成長してきた過程についてもご紹介いただきました。

特に強調されていたのは、投資活動における理念の重要性です。アドバンテッジパートナーズでは、投資先企業を、ファンドから離れた後も強く競争力を保ち、地球環境問題や社会的課題の解決に貢献しながら永続的に成長する企業へと発展させることを重視しているとのお話がありました。また、投資家だけでなく、他の株主、従業員・家族、取引先、金融機関等、全ての関係者が経済的価値を享受できるように投資実行や投資後の経営プロセスを支援するという考え方も示されました。

笹沼様は、新しい投資先の経営陣と初めて会う際にも、この投資理念を必ず伝えておられるそうです。それは、投資先や関係者に対して、理念に基づいて投資や経営支援を行うことを明確に示し、安心していただくためであるとのことでした。資金を持つ側と資金を受ける側との間には、理論的には大きな力関係の差が生じ得ます。そのような関係の中で、公平性を重視した投資の理念を大切にし続けてきたことが、結果として良い人材、良い案件、良い資金が集まる循環につながってきたというお話もありました。

リーダーシップの変化についても、お話しいただきました。企業を取り巻く環境や経営課題が複雑化する中で、従来のような一方向的な、上から下へのリーダーシップだけでは対応が難しくなっています。深い知識や経験を有する人材、外部の専門家、異業種、政府、大学、ベンチャー企業など、多様な関係者をどのようにコーディネートし、組織として課題に対応していくのかが重要であると説明されました。この文脈で示されたのが、「動態的リーダーシップ」という考え方です。リーダーシップは固定的なものではなく、時間の経過に応じて変わっていくものであり、変化してよいものである、というお話がありました。また、リーダーシップスタイルは経験から学ぶことも多い一方で、自分が受けてきた指導やコミュニケーションのあり方を無意識に再現してしまう危険性もあるため、理論にも触れながら、自分に合ったリーダーシップスタイルを意識的につくっていくことが大切であると述べられました。

さらに、明確な理念と行動が周囲を巻き込み、大きなムーブメントにつながっていく例として、若くして環境問題に取り組んだワイゼンさん(要確認:固有名詞が正しいかご確認ください)の活動にも触れられました。最初は学校の友人に働きかけ、そこから村、町、市、そしてより大きな社会へと活動が広がっていったというお話を通じて、年齢や立場にかかわらず、理念と行動によってリーダーシップを発揮できることが示されました。

講演の後半では、交渉についてのお話がありました。笹沼様は、実務を通じて考える交渉の定義として、交渉に関与する全関係者が交渉の成果の意味を定量的・定性的に理解し、合意形成に向けてコミュニケーションを反復し、成果を実現するプロセスであると説明されました。

その中で、交渉相手自身も、自分たちにとっての成果が何であるかを十分に理解していないことが多いという指摘がありました。そのため、相手方に対して、相手にとっての成果や利益が何であるかを示すことが、合意形成において有効であるとのことでした。また、合意形成が必要となる自社内のメンバーも、交渉相手となる場合があること、さらに相手方の組織内にも異なる意見が存在することが多く、その意見調整を支援することで交渉全体の力学が変わってくることもお話しいただきました。

また、笹沼様は、「交渉」と「自己の都合を押し通すこと」は全く異なるものであると述べられました。強い言葉や態度によって一時的に条件を得たとしても、ビジネス上の関係は一度きりで終わるものではなく、その後も続いていくことが多いため、敵対的な印象が残ると、後の交渉にも悪影響を及ぼすとのことでした。関係者との関係を動態的に管理しながら合意形成を目指していく姿勢が重要であるというお話は、これまでの交渉学の学びとも深くつながるものでした。

講演後には、田村先生より、今回のお話と授業内容との接続についてコメントがありました。日本においてプライベート・エクイティ・ファンドやM&Aに対する見方が厳しかった時代に、笹沼様が相手企業のことを考え、その会社にとって良いことを実現しようとしてこられた点は、リーダーシップの重要な要素であると説明されました。また、動態的リーダーシップは、変化に応じて状況を見ながら対応していくリーダーシップと関係するものであり、交渉においても、さまざまなプレイヤーや考え方が存在する中で、より良い結果を導く力が求められるという点が確認されました。

笹沼様との対談では、受講者から多くの質問が寄せられました。交渉において相手を尊重する姿勢をどのように示すのかという質問に対しては、人間的なコミュニケーションだけでは限界があるため、相手にとってのベネフィットを定量的・具体的に示すことが重要であるとお話しいただきました。単に「勝った」「負けた」という感覚ではなく、経済的な意味でも価値のある成果が得られることを根拠をもって示すことが、相手の納得につながるとのことでした。

また、先の見えない時代にどのようにリーダーシップを取り、維持するのかという質問に対しては、混沌とした時代であっても、社会に対してどのように貢献できるかを考えることが人生の喜びや支えになると述べられました。環境の変化にただ押し流されるのではなく、それにどう対応し、どう影響を与えていくのかを考え続けることの重要性が示されました。

さらに、パワーギャップがある中で相手とどのように共同的なコミュニケーションを行うのかという質問に対しては、たとえ株式を100%保有しているような立場であっても、説得性や納得性がなければ人は動かないというお話がありました。経営課題を丹念に分析し、それを経営幹部や事業部門の方々と共有しながら、一緒に解決していく姿勢が重要であると説明されました。

交渉の定義がどのように形成されたのかという質問に対しては、笹沼様は、7割は実務、3割は慶應やハーバードでの学びを含む理論から来ていると述べられました。また、実務上の交渉では、相手方がどのような反応をするかを複数想定し、それに対してどのような提案ができるかを整理するディシジョンツリーを作ることがあるとのお話もありました。

理念は営利組織以外にも必要なのかという質問に対しては、サークルのようなインフォーマルな組織であっても、人が二人以上属する組織であれば、理念を作り、紙に書き、メンバーに共有することに意味があると述べられました。また、カリスマについては、単に目立つ人や派手な人ではなく、パーソナル・アイデンティティをきちんと持ち、それをぶれずに外部へ伝えられている人であるという考え方が示されました。

目標の定め方に関する質問では、大きな目標を掲げるだけではなく、それを時間軸に沿って細分化し、今何をすべきかが見える形にしていくことが重要であると説明されました。また、目標の設定やそれを具体化するプロセスに周囲の人々を参画させ、最終的にはその目標を自分たちのものとして感じてもらえるようにすることが、実行につながるとのお話がありました。

最後の質問では、日本で初めてプライベート・エクイティ・ファンドを作ろうとした理由や、謙虚でいられる理由についての質問もありました。笹沼様は、大企業で働く中で、自分の人生として本当に合っているのかを考え続け、起業家としての道を選んだことをお話しされました。また、場に応じてコミュニケーションのスタイルを設計していること、自分には尊大になりがちな側面があるからこそ、それを戒める意識を持っていることについても率直に語られました。

講義の結びでは、笹沼様より、塾生に向けてメッセージをいただきました。社会に出たとき、組織の中の一番下の立場から始まるとしても、ただ言われたことをこなすのではなく、自分なりの理念を持ち、それを文章にし、周囲に伝えていくことが大切であると述べられました。また、組織の内外に問題意識を共有する仲間を作り、共に課題解決に向けて動いていくことの重要性も示されました。

さらに、学生時代にしっかりと勉強し、自分の専門分野で高い目標を持って取り組むこと、そして常に準備ができている状態で機会に向き合うことの大切さについてもお話しいただきました。「常に自分は準備ができている」という姿勢を持ち続けることが、その後の人生に大きな違いを生むというメッセージは、受講者の皆様にとって強く印象に残るものだったのではないかと思います。

今回の講義は、リーダーシップと交渉が、単なる理論や技法にとどまるものではなく、理念を持ち、関係者と向き合い、合意形成を重ねながら社会に価値を生み出していく実践であることを学ぶ機会となりました。受講者の皆様にとっても、自らの将来や社会との関わり方を考える上で、多くの示唆を得る時間になったように思います。

履修生の学び 〜講義後に提出される振り返りシートより抜粋

⚫︎法学部法律学科 4年生
今回の講演では、実際に社会の第一線で活躍されている笹沼さんからリーダーシップについてお話を伺うことができ、大変学びの多い時間となった。特に印象に残ったのは、リーダーシップとは役職や地位によって発揮されるものではなく、自ら理念やビジョンを持ち、周囲の共感を得ながら目標達成へ導く力であるという考え方である。私はこれまでリーダーシップを組織の上に立つ人のものだと考えていたが、笹沼さんのお話を聞き、新人であっても課題意識を持ち主体的に行動することでリーダーシップを発揮しうることを学んだ。また、AI等が発展した現代社会では一人の知識や経験だけで組織を導くことには限界があり、多様な専門家や関係者をつなぎながら組織を動かしていくことが重要であることも印象的であった。これはこれまでの交渉学で学んだ合意形成の考え方とも共通しており、相手を説得するだけではなく、異なる立場の人々の理解や共感を得ながら目標を実現していくことの重要性を改めて感じた。これまで授業では理論としてリーダーシップや交渉について学んできたが、実際に企業経営や投資の現場で活躍されている方のお話を通じて、それらが実社会でどのように活用されているのかを具体的に理解することができた。今回の講演を通じて、社会に出た後は与えられた役割を果たすだけではなく、自ら課題を見つけ、周囲との対話や合意形成を重ねながら主体的に行動していきたいと感じた。また、どのような立場の相手に対しても誠実な姿勢を持ち、自分にできる最大限の価値を発揮できる人材を目指したい。

⚫︎法学部法律学科 3年生
今回の授業では、アドバンテージパートナーズの笹沼泰助氏の講義を通じ、実務における「生きた交渉のあり方」について学んだ。
特に印象に残ったのは、自社の理念を貫きつつも、投資先企業と対立するのではなく、協調的に企業価値の向上を図ることの重要性です。質疑応答でも触れられていたが、私自身もPEファンド等の投資手法に対しては、リストラなどの痛みを伴うドラスティックな合理化を強行する、冷酷なイメージを少なからず抱いていた。
しかし今回の講義を通じて、投資先と共同して成長を支援する「協調的交渉」の姿勢こそが、長期的かつ持続的な成果を生み出す最適解であると認識を改めた。また、こうした交渉の基礎やマインドセットは、ビジネスの枠を超えて日常のあらゆる場面で応用可能であるというお話には大変感銘を受けた。私自身の現在のフェーズにおいても、日々直面する課題や対人関係に直ちに適用できる実践的な視座を得ることができました。
今回の講義は単なる「交渉学」にとどまらず、将来の起業やビジネスの成功に不可欠な高度なコミュニケーション能力の本質に触れるものであった。今回得た学びを羅針盤とし、今後の自身のミッションや目標の実現に向けて日々の実践に落とし込んでいきたいと考える。

⚫︎法学部法律学科 3年生
笹沼さんの講演を通じて、現代のリーダーシップにおいて最も重要なのは理念であると学んだ。笹沼さんはリーダーシップを地位や権限ではなく、自らの理念とビジョンに基づいて周囲を動かし、目標達成へ導く人的影響力と定義していたと思う。この考えは、リーダーは管理職だけが担うものだと思っていた自分にとって新鮮であった。
また特に印象に残ったのは、世界情勢や技術革新によって社会が複雑化する中で、従来のトップダウン型のリーダーシップには限界があり、多様な専門家や組織をつなぐダイナミック・リーダーシップが求められているという点だった。リーダーはすべてを知る存在ではなく、異なる知識や価値観を持つ人々を結び付け、共通の方向性を示す役割を担うことが重要だと思った。
そして、笹沼さんが組織内での地位の向上を待つ必要はないという言葉も印象深かった。自ら問題意識を持ち、理念を明確にして行動を起こした瞬間からリーダーシップは始まるという考え方は、自分の今後の大学生活にも生かせると感じた。自分も受け身で機会を待つのではなく、自分なりの志や理念を持ち、周囲に良い影響を与えられる人間を目指したいと思った。

⚫︎法律学部法律学科 4年生
笹沼様のお話をお伺いし、親身に質問に対してお答えいただいた中で、複雑化する経営環境において求められる新しい交渉のあり方、またリーダーシップを発揮するための姿勢について深く学んだ。
特に印象的だったのは、交渉相手の組織内にも多様な意見が存在し、その整理を支援することが合意形成の鍵になるという視点である。また、自社組織のメンバーも「広義の交渉相手」であるという指摘から、交渉とは外部だけでなく内部の調整も含めた多角的なプロセスであると気づかされた。長期的に世界に価値を創造し続けるために必要なリーダー像は、他者を的確に巻き込み、協働で価値を創造することのできる人材であることを理解した。
また、最後の質疑応答の中で「自分自身はすぐイライラしてしまう性格で、そんな自分を変えるためにネクタイを毎日締めている。着用中には何か自分が腹立つ瞬間があってもネクタイを見ると落ち着きを与えてくれる」とのお話に深く共感した。自分自身を変えていくためには頭で考え理解しようと試みるだけではなく、行動習慣も同時に変えていくことが求められると理解した。
今後は在学中から圧倒的な努力を重ねて実力を付けつつ、謙虚で丁寧な対話を重んじ、状況を自ら動かせるリーダーを目指したい。